センセイとパパ活(第3話)

「アヤがそんなことをなあ」
遅く帰ってきたセンセイに、夕食を出してあげる。私はアヤちゃんがお菓子も我慢しているということを説明した。

「かわいそすぎじゃない?」
「いや、俺も言ったんだけどな。いいって言うもんだから」
まあ、センセイじゃ私みたいに「自分が食べる」という言い方もできないか。

「あいつ、お小遣いもほとんど使ってないみたいだな」
「ああ、みたみた」
「見たのか?」

「あ、中身は知らないけど。部屋に貯金箱が20個ぐらいあったよ。全部ずっしり重いの。あれは殺人の凶器に使えるね」
私は向かいの席に座って両手で頬杖をついて、センセイが食べている姿を眺めながら言った。

こうしてると、まるで夫婦みたい。

「ねね、センセイ」
「ん?」
食事に集中しているようで、がっつきながらこっちを見ずに答える。

「女子高生のお嫁さんとか、どう?」
吹き出しそうになるが、すんでのところで堪える。
「おまえ、なにいってんの?」

「いやあ、こうしてアヤちゃんの話してるとさ、悪くないなって」
「ああ、そっちか」

ふと、違和感があった。
センセイの慌て方だ。
ビックリしたというのは違いないんだけど、意表を突かれたというよりは……それに「そっち」って「どっち」なんだろう。何かと勘違いしているという点では間違いはない。

「おまえなあ、俺がそんなことしたら淫行教師だ。クビだよクービ。アヤもメシが食えなくなっちまう」
「わかってるよ、そんなことは。でもバレなきゃよくない? いまだってバレてないし」

「なんなの、それ流行ってんの?」
私は、センセイがなんのことを指しているのかわからなかった。

「それって?」
「バレなきゃってヤツ」

「いや、そんなことないと思うけど。なんで?」
「あー、ああ。なんかよく耳にするなって思ってさ」

「そう?」
そういえば私もなんか聞いた気がするなあ。それもごく最近。

あっ。
そうか。モリカナだ。

思い出した。あいつ、センセイのことが……。
背筋がゾクッとした。殺されることを明確に想像したわけではないが、モリカナの計り知れない殺意というか、怨念のようなものを感じたのだ。

同時に、私の中のもう一つの感情が、はっきりと感じ取れた。

もちろん、純粋な彼への想いだけではない。
アヤちゃんのことや自分の境遇、今現在の関係、いろいろあってのこと。

だけど私は、いつの間にかセンセイのことが好きになっていた。今までも、うすうすは思っていたけど、それは友達とか頼りになる兄貴的なものだと思っていた。

でも、アヤちゃん……そう、一番の理由は彼女かもしれない。

私とセンセイの間に彼女が存在していると、妙に現実味を帯びた家族感が増してくる。なんというか、センセイのことを好きには違いないんだけど、彼氏彼女のカンケイを飛び越えて、夫婦になってしまったような気持ち。

ドキドキはしない。だけど、今まで感じたことがない安らぎとか幸せは、ハッキリと感じとれた。センセイもアヤちゃんも、私の大事な家族。そういう純粋な愛だったと思う。笹岡親子と過ごしていると、なんだか力強い活力や自信が湧き出てくる感じだった。

でも、それはモリカナとライバルになるということ。
そして彼女の殺意を、この身体で受け止めるということ。
その生命の危機が、皮肉にも自分の気持ちに気づかせることになった。

「すまん、言い方が悪かった」
「へっ? え? なになに?」

「いや、傷ついてたみたいだったから」
あ、あー。断られてショックを受けてるように見えたらしい。
でも、面白そうだから、このままそういうことにしておこう。

「たしかに、私はまだ子供だけどさ」
「うん、そうだな。ちゃんと女として扱うべきだった。すまん」

「せめて、1回ぐらい抱いてから判断してよ」
センセイは黙り込んでしまった。
ちょっとやりすぎたか。

「あのな、日村。男っつうのは、女が思っている以上に男なんだ」
おっと、センセイの変なスイッチが入ったか。

「正直、女子高生ぐらいなら、性の対象として見られるヤツの方が多いだろう。だから、そういうのを売りにした商売もなくならないんだしな」

「あの。センセイ」
謝ろうとするも、センセイに首を左右に振られる。いつの間にか食事の手を止めてこっちを見ていた。

「しかし、高校生というのは社会一般的に見ればまだ子供なんだ。未成年に該当し、守られる存在だ。思考や身体は一人前でも、精神面や経験面はそうじゃない。だから、それを食い物にするヤツが集まるわけだ」

うええ、めんどくさいよう。もう「私のことを思っている」の一言だけでいいのに。気持ちは伝わってるんだよう。

「だから、今のおまえとは付き合えない。俺は守る側の立場だし、おまえは守られる側の対象だからだ」
あれ、私、いまサラッと失恋した?

「だけど」
だけど?

「もし、高校を卒業しても、成人しても、仕事を見つけて一人前になっても、まだ気持ちが残ってるなら、もう一度俺のところに来い。俺は待っててやる」
アツイ瞳で見られている。

「それ、マジで言ってる?」
「ああ。俺が今返せる精一杯の言葉だ」

「私のこと好き?」
「……まあな。最初は不憫な生徒ぐらいにしか思っとらんかったが」
始まりがそうだったしね。

「アヤと仲良くしてるのを見ると、だんだん他人とは思えなくなってきてな」
センセイもアヤちゃんが起爆剤となったようだ。
「でも、それって娘としてみたいな感情じゃない?」

「それだけじゃない。逆境に負けず、一生懸命に前を向いて歩こうとしてるおまえを見てると、人間としても、女としても惹かれるものがあった。それは間違いない」

さすがに星5つ並のレビューをもらうと恥ずかしい。そんなたいそうなヤツじゃないことは、自分でもよくわかっているし。騙してる気持ちになる。

「うん、わかった。私、センセイに相応しい女になれるように頑張る。だから、見てて」
センセイは力強く頷くと、再び食事を始めた。

「火、かけ直すよ」
そう言って、センセイからお皿を預かろうと近づく。

お皿を受け取るぐらいの距離で、
「んっ」
センセイの意表をついて唇を近づけた。

思ってたよりもずっと柔らかかったそれは、私が生きてきて、初めて人間と繋がりを持てた出来事だった。

「保証金代わり。ファーストキスだったんだから、あとでこの話はウソだったなんて言わせないからね」
吐息が掛かりそうなほど、近い距離でそう言った。

センセイは優しく頭を撫でてくれた。
ファーストキスはポトフの味がした。

執筆を応援していただける方を募っています。

BTC

金額は0.001BTCから、ご自由に金額を設定いただけます

Personal Info

Donation Total: BTC 0.0010

スマホからのご寄付が上手くいかない場合」について追記致しました。詳細はコチラをご確認下さい

スポンサーリンク
レクタングル (大)

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

スポンサーリンク
レクタングル (大)