センセイとパパ活(第1話)

宿泊施設に向かって、お客さんと腕を組んで夜の繁華街を歩いているときだった。
「日村!」

繁華街の隅から隅まで届くような、男の怒声だった。
私は心臓が口から飛び出そうなほど驚いて、思わず跳ね上がってしまった。
おそるおそる声の方へ顔を向けてみると、

「笹岡センセイ……」
ヤバイと思った私は、お客さんを見てみた。同じように顔が強ばっている。

「あのセンセイ手強いんで、変なウソはつかないようにした方がよさそうです」
こっそりお客さんにそう伝えると、小さく頷く。

「こんな時間に何してるんだ? この人は?」

お客さんの顔と私の顔を交互に見るセンセイ。時計の針は0時を回っている。腕を組んだりしている時点で幾つかの答えは選べない。

「あー、えっと……彼氏、です」
語尾が消え入りそうなほど、小さい返事だった。

「彼氏い?」
訝しそうにお客さんを見つめる。そして私を見てこう尋ねてきた。

「名前は?」
「えっ?」

私はお客さんの名前を知らない。聞かなくても問題がない関係だからだ。パパ活の名前の通り、「パパ」と呼ぶのが普通だった。

「あ、えーっと……武……です」
「すみませんが、私はこの子の通う学校の教師でね。失礼ですが、身分を証明できる何かを見せてもらってもいいですか?」
やはり笹岡センセイは手強かった。

「あ、えーっと」
とりあえずお客さんは「武」ではないらしい。この動揺を見ていればわかる。お客さんはこちらを見てこう言った。

「あの、さやかちゃん?」
あー、やっちゃったあ。

瞬間、その場の空気が張り詰めたような気がした。
「この子は日村優花ですが? 一体どういう関係ですかね? 場合によっちゃ」
「あー、センセイごめん。あのね、これはパパ活って言って――」

お客さんに迷惑は掛けられなかった。私は生活費が窮していることも含めて、お客さんに非がないことを説明することにした。

自分が困っているところを助けてくれただけで、私から事情をちゃんと説明すると伝えた。誠意が伝わったのか、センセイはお客さんを解放してくれる。

その後、私は話を聞くという名目で、センセイの自宅に呼ばれることになった。

アヤちゃんは既に寝ているらしく、静かに入るように言われる。玄関からは、なんとなくセンセイのニオイがして、心が落ち着いた。

「まあ、俺もカマを掛けるような言い方をして悪かったな」
「えっ?」

そう言いながらセンセイは、リビングにあった椅子を引いてくれる。センセイが引いてくれた椅子へ静かに座ると、
「どういうこと?」

「ん、まあ生徒からあるサイトの申告があってな」
そういって、センセイが自分のスマホの画面を見せる。
「あ、あー……そういうコト」

センセイのスマホには私が利用しているサイトの、私の書き込みが表示されていた。本名や学校はもちろん伏せているが、この近辺だという情報は載っている。学校サイドも警戒していたというところだろう。

「メーワクかけてごめんね。でも、ほんとウチの家って困っててさ。私が稼がないと、ご飯も食べられないわけよ」

「お母さんは、このことなんて言ってるんだ?」
「んー、知らないと思う」

「知らないっておまえ……常習だろう?」
といってセンセイは、「さやか」名義の書き込みを一覧表示させる。最新ガジェットにも詳しいセンセイは本当に手強い。

「お母さんと、うまくいってないのか?」
色々なことが頭の中を巡っていて、何も答えられなかった。

「まあ、片親で親子関係がうまくいっていないってのは珍しいことじゃない。今回みたいに子供が困っている場合だけじゃなくって、親が相談してくるケースもあるしな」

「センセイ……なんか知ってんの?」
「なんかって?」
ハメられた。またカマをかけてきたに違いない。

「普通に考えただけだよ」
「普通に?」

「常識的に考えて、娘がこんな時間まで、頻繁に出回っていることに気づかない親なわけだろ。うまくいってるとは思えないじゃないか」

あー、そういうコトですか。
「ましてや、おまえはコレで金もらっていたんだろ? 子供の金回りを把握してない親ってのも、ちょっとな。女子なら身形で気づくだろうしなあ」

いちいち正論をついてくるので、なんの反論もできずに黙り込むしかなかった。仕方がないので無策で正面から頼んでみる。

「そういうことだから、見逃してよ。ね?」
「うーん……でもなあ。教師としては、こんな仕事、認められんぞ」

「だって、学校が悪いんじゃんかさ。特別でもなんでも、バイト認めてくれればいいのに」
「申請を出せば特例を認めることもできるが」
「え、マジ?」

「特例を認めると、そのことが公になる」
「あー……ダメだ、それは」
「おまえも友達にヘンな目で見られたくないだろ」

「でも、普通に考えて、明日からどうやって食べていくのさ」
「これは児童虐待って言うんだよ。既に普通じゃないんだ」
「私だって考えてんだよ? 学校とか変わりたくないし」

「おまえ自体は別に問題児だとは思っとらんさ」
なんか嬉しかった。そもそも担任でもない教師に、ここまで話をできる、聞いてもらえる、自分のことを考えてくれているというのがたまらない。

パパ活もそうだったけど、どうも私はファザコンの気があるのかもしれない。

「このケースで母親を追い詰めると、さらに問題が悪化することもあってな。子供の人権も考えると、今は現場の判断がすごく難しいんだよな」

別にパパ活認めてくれるだけでいいんだけど。
「よーし、わかった」
ドキンとした。何をわかられたのかわからないので、不安で仕方がない。

「おまえ、うちで子守しろ」
「は?」
「アヤの面倒みてやってくれ」

「アヤちゃん、面倒みるほど子供じゃないでしょ」
「小学生の娘を、夜ひとりにしとくのは不安なもんだぞ。今日みたいに帰るのが遅くなることも多いしな。やることないんだったら、家の掃除とかなんでもいいよ」

「でも、それこそセンセイやばくない?」
「学校側には説明するし、虐待相談所とか地域側には伝えるよ」
「それで、有名になったりしない?」

「しないようにするために説明するんだ。俺と一緒に顔出したり、査察っていうか、定期的に職員が来て、経過を聞かれたりすることはあるかもしれんが」
「んー、なるほど」

「メシは食わせてやるし、多くは出せないがバイト代も払う」
「へー、教師って儲かるんだ?」
「んなワケあるか。アヤの今後の学費とか俺の老後とか考えたら、余裕なんてない」

「ふーん。じゃあ、ありがたくお世話になります。それじゃ、不束な者ですが」
深く頭を下げる。
「その代わり、生活態度は他のヤツより気をつけるようにしろよ。こういった特待は、ちょっとしたことで、すぐに無効になることもある」

こうして私は、センセイとパパ活することになった。収入は下がるだろうけど、食べる分とか最悪センセイに頼ることができるっていうのは安心だ。

何より、ひとりじゃないっていうのが大きくて、ホッとした。

第2話へつづく

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